2007年07月18日

高橋芳朗氏によるアルバム解説

「広めるホンモノの Hip Hop シーン このフィールド ぶち込む Aggressive & Hungry」
奴らに深き眠りをーー予告された革命の記録、"E"qual第三弾。

 昨年の10月から12月にかけてはBallersとしてのミニ・アルバム3部作があったし、今年に入ってからはDaboの“Shall We Rock?”のような強烈なインパクトの客演作品もあったから、約10ヵ月というインターヴァルが余計に短く思える。昨秋の『7 Days』に続く、"E"qualのメジャー第3弾『King & Queen』。当初EPの予定でスタートしたレコーディング作業は、結果として計14曲を収めたフル・ヴォリュームのアルバムを作り上げることになった。
 「今回は熱めで派手な爆弾ばっかりのアルバムにしたかった。その考えをミニ・アルバムからフル・アルバムにそのまま移行した感じですね。内容的には今まで以上にヴァラエティに富んでるかもしれない。アルバム全体を通してひとつのメッセージを伝えるというよりは、曲単位でメッセージをしっかりつけていった感じかな。だから特にアルバムのコンセプトみたいなものはないんですけど、強いて挙げるとしたらさっきも言った〈熱めで派手な爆弾ばっかり〉ですかね」

 今回の『King & Queen』のトラックリストを眺めてみてまず驚かされるのは、2曲を除くアルバムのすべてのトラックにゲスト・アーティストを招いている点だ。その賑やかな構成は2004年のインディペンデント・リリース『Get Big "The Ballers"』を彷彿させるところもあるが、ここでの徹底ぶりは同作のスケールをも遥かに上回るものがある。
 「ミニ・アルバムで話が進んでいたときからそういう方向で。とにかくいろんな人とコラボするのが好きなもので……まあ、単純に楽曲もヴァラエティ豊かになりますからね。目指していた〈熱めで派手な爆弾ばっかり〉っていうトーンにもよく合うこともあるし」

 さらに、「自分も口を挟む前提でお願いした」というGrand BeatzやDJ Mitsu(nobodyknows+)、DJ Taikiらとの共同制作を含む全曲での自身のプロデュース関与。変則的な形とはいえ全編セルフ・プロデュースというシフトは"E"qualのキャリアにおいて初めての試みになるわけだが、その背景には〈熱めで派手な爆弾ばっかり〉というアルバムのテーマに則ったサウンド面での明確なヴィジョン、さらには生楽器の導入もカジュアルにこなすようになった"E"qualのプロデューサーとしての著しい成長ぶりが存在している。

 「『7 Days』では音数がシンプルでバウンシーなものを狙っていたんですけど、今回は味付けをあえて増やそうと思って。とにかく味付けしまくってましたね。それはトラックにしても歌にしてもそう。前回とは真逆な考え方って言ってもいいかもしれないですね。ラップだったら被せやガヤも入れまくったし、あえてブリッジとかも作ったし。聴いていて単純に面白い流れを作りたくて。トラックにしてもワン・ループが基本なんだけど、その中で2枚使いっぽく組み替えてみたり、イントロでちょっと遊んでみたり……展開がある方が聴いていて楽しいと思うから、そういうところを意識的に増やしましたね。あと、今回は生バンド入れてますからね。生楽器を入れることによって打ち込みにはないグルーヴが生まれてくるじゃないですか。単純に、鍵盤で叩くギターと実際に弦で弾くギターは全然違いますからね。そういうところで新しいサウンドが生まれた手応えはあります」

 そういえば前作『7 Days』のリリース時、"Equal"が「ヒップホップな作り方でメロディアスでキャッチーなものができたらと思っている」と語っていたのを思い出す。今回の『King & Queen』で打ち出されているサウンドはその発展型/完成型と解釈することができると思うのだが、こうしたプロダクション面での進化はラップの取り組み方にも少なくない影響を及ぼしている。
 「耳に残りやすいキャッチーなトラックっていうのもそうなんですけど、サビも日本語でわかりやすくゆっくりハメることを意識して作りましたね。最近はその方がイケてると思うようになってきたっていうか。これがかっこいいんだって思ってやってましたね。向こうの曲でも最近そういうのが多くないですか? サビがメロディアスでわかりやすくて、それが曲の印象を決定付ける要素になってるっていう。そういうのを聴いていて自分も意識してやるようになりましたね」

 そんなアルバムを象徴する楽曲に挙げられるのがリード・トラックとなる“Know Music Know Life”だ。これは"E"qualの24時間を追った『The Rock City -M.O.S.A.D.'s Town-』での“Don't Worry About It”、それを1週間に拡大した前作のタイトル曲“7 Days”をさらにスケールアップしたような内容で、著名ヒップホップ・アーティストやクラシックのフレーズが次々と繰り出されていくリリックは音楽を拠り所としてきた彼のライフ・ストーリー的な色合いを濃くしている。
 「これはめちゃくちゃ楽しかったですね。もともとはスタッフからネームドロップをやって欲しいって言われて挑戦してみたところもあったんですけど、書き始めてみたら思いのほかすらすら書けましたね。まずは自分の年表を作って、それからそれぞれの時代に流行ってた曲とか使いたいフレーズを書き出して表にまとめて……それを見ながら一気に書き上げました」

 "E"qualの音楽に寄せる情熱をまた別の形で表現しているのが、その名も“Music Hustlin'”と題されたポッセ・カットだ。ここでは故Tokona-XやAkira、DJ NonkeyといったBallersクルーをはじめ、地元名古屋の盟友AK-69、"E"qual作品の常連となりつつある般若(妄走族)とMaccho(Ozrozaurus)など、志を共にする1978年生まれのヒップホッパーがずらりと集結。最高に熱いマイク・リレーを繰り広げている。
 「これはキッズ大好きだろうなっていう……僕がリスナーでもこのメンツ見たらちょっと気になるでしょうね。前からずっとやりたいとは思っていたんですけど、なかなか形にする機会がなくて。でもまあ、いざ手を付けたら一人増えようが二人増えようが一緒かなって思って、それで『今回は78年組で実現させたいんで協力してよ!』ってみんなに連絡したんです。それにしても結構贅沢な使い方してますよね……一人8小節ですから。とにかくイケイケ・ソングを作りたかったんですよ」

 強固な絆を感じさせるという点においては、名古屋レゲエ・シーンのパイオニア=Ackee & Saltfishをフィーチャーした“Shatta Fire -Reloaded-”も強烈だ。タイトルを見ての通り、これはM.O.S.A.D.として参加したAckee & Saltfishの“Shatta Fire (Murder Mix)”(2003年のアルバム『Stilla Struggle』収録)のアップデイト版と言えるもので、リル・ウェインの“Mo Fire”にも通ずるルーツ・ロック調のビートがかっこいい。
 「最近のレゲエ・テイストのヒップホップってダンスホール的なアッパーのものが多いじゃないですか。そういうのも嫌いじゃないしクラブとかでかかったら僕も盛り上がるんですけど、ニュアンス的にはリル・ウェインがレゲエのトラックでやったような、ああいう感じのやつがやりたかったんですよ」

 “Shatta Fire -Reloaded-”と共にアルバムのヴァラエティ感を強く印象付けている楽曲としては、名古屋界隈を中心に客演が急増中の異才プリメラのトークボックスが冴え渡るファンキー・ディスコ・チューン“Everybody Get Up”がある。共同でプロデュースを務めるDJ Mitsu以下、ノリ・ダ・ファンキーシビレサスやヤス一番?といったnobodyknows+の面々との共演は、間違いなく"E"qualの新境地を指し示すものだ。
 「自分から提案したコラボではあるものの、形になるまではちょっと不安でしたね。MITSUくんとは昔からなんかやろうとは言ってたんですけど、具体化には至らなくて。今回のアルバムはヴァラエティに富んでることもあるし、いろんな方向に飛んでみてもいいかなと思ってやってみることにしました。もちろん、意外性も狙いましたけどね。楽曲自体はかっこいいものになってるわけだし、これでごちゃごちゃ言う奴がいたら"E"qualのことが好きじゃないんだなって感じですね。これで認めてくれないんだったらそれまでかなって」

 その他、アルバムの〈派手め〉な部分を体現するトラックにはFoxxi misQとのジョイントとなるゴージャスなクラブ・バンガー“King & Queen”、Mr.OZの意外な起用法も新鮮なトロピカル・ムード横溢の“Ballers Vacation”などがあるが、"E"qual言うところの〈熱め〉なフィーリングが発揮されている曲にももちろん聴くべきものは多い。その中にはFull Of Harmonyのコーラス・ワークも美しいエモーショナルなラヴ・ソング“Simple Man”、G.B.L.やJamosaらと共に同胞へエールを贈る“Don't Cry”なども含まれるが、一際鮮烈に響くのがアルバムを締め括るSorasanzen(Rize)とのコラボレーション“Warnin'”だ。これは"E"qualにとって初の社会的なメッセージ・ソングになる。
 「今までは俺がやったところで『なにかっこつけてんだよ!』って言われるのがイヤでこういうサブジェクトはやらなかったんですけど、でもいざ書き始めたら最近の暗いニュースとかについて真剣に考えるようになったんですよ。関わるんだったらテキトーなことは言えませんからね。Sorasanzenとはクラブで会って軽く立ち話する程度の間柄だったんですけど、一緒になんかできたらと思ってRizeのライヴ観に行ったらとにかくヤバくて……才能豊だなぁって感じでしたね。彼はそのときも社会問題を扱った曲を歌っていたし、話してみたらそういうことについて真面目に考えてるところがあったから、ちょうどいいなぁと思って」

 そして、毎回恒例となっているJack Herer(妄走族)のスクラッチをフィーチャーしたイントロダクション“Intro〜Aggressive & Hungry〜”。自身の作品では“Money Clip”(『The Rock City -M.O.S.A.D.'s Town-』収録)以来二度目のコラボとなるAnarchyを迎え、魂を削るように決意を表明していく"E"qualの勇姿にはきっと多くのリスナーが胸を熱くさせられるはずだ。
 「この曲は文字通り〈アグレッシヴ&ハングリー〉の精神で取り組みたくて。で、気持ちを奮い立たせるようなラップが欲しいって考えたとき、すぐにAnarchyの顔が思い浮かんだんですよね。あいつのラップを聴くと昂ってくるようなところがあるから」

 2004年2月のソロ・デビュー以降、現在までに4枚のフル・アルバムと1枚のミニ・アルバムを作り上げ、毎回確実にアップグレードした成果を届けてくれる"E"qualの活動内容は、まさに〈アグレッシヴ&ハングリー〉と形容するに相応しい。「1年に1枚のサイクルはこれからも続けられたらと思ってます。僕は常に曲を作っているんで、古くなる前にどんどん出していきたいっていうのはありますね」と、涼しい顔で言ってのける彼のクリエイティヴィティには頼もしさと同時に末恐ろしさすら感じてしまう。

高橋 芳朗